雪になりたい椿の日記

雪になりたい椿の日記です

#2

 暖かい日だった。湿度が高かった。そうとは知らず、この頃はいつも寒いから、今日も制服の上にウィンドブレーカーを着た。作業をしているうちに汗がながれた。新人のYさんに仕事を教えていたから脱ぐタイミングがなくて、退勤するころには夏のように肌が火照っていた。今もその熱がぬけない。朝は寒かったからMA-1を着て家をでた。帰りは脱いで帰ってくればよかった。上着を手に持って電車に乗ることや街を歩くことに抵抗がある。肌の火照りがおさまるまで眠れないと思う。

 昨日の事件が何度もテレビにながれて気持ちが乱れる。家族が「死刑だ!」と叫ぶと、どうしてか心が傷つく。そういう状況に出くわしたら自分はどうするだろう。そもそも自分はどちら側になるだろう。昨日の事件を見て最初に浮かんだ感想は「恥ずかしい」だった。センスがない。倫理よりセンスが気になる。発想が貧困。全くセンセーショナルに値する発想ではない。それでよく他人を巻きこもうと考えられたな。自分なら恥ずかしくて恥ずかしくて、一瞬でもその発想を本気にした自分が嫌になるけど。そう考えている自分は頭のなかで完全にそちら側にいる。襲われることはあまり考えていない。そんなことを家族に話したら殺されてしまうかもしれない。

 駅のホームで、まだ冬眠していない蜂が線路を蟻のように這っているのを眺めていたら、自分はあるたった一人の人のことだけが怖いのだと気がついた。突然。前々から気がついていたような気もする。腑に落ちたのかも。その人の人間関係の網の外へ行きたい。早くからその気持ちに素直になれていたら違う生き方ができたのに。