雪になりたい椿の日記

雪になりたい椿の日記です

#32

 深夜一時に目が覚めてトイレへ行ったらリビングの明かりがついていた。覗いたら母が本を読んでいた。びっくりした。早く寝てほしかったけど、会話の少ない親子だから「起きてないで早く寝たほうがいいよ」とは言えなかった。気づかれないよう静かに自室へ戻った。僕がベットに戻って数分すると母が寝室へ移動する音がした。それを聞いてから耳栓をして目を閉じた。それから暫く寝つけなかった。それで今日は寝不足だった。

 夕方の休憩時、昨日から観ていたナショナルジオグラフィックマヤ文明回の続きを見た。マヤ文明では儀式や生贄が盛んに行われていた。番組では、地下洞窟や遺跡から、生贄にされたと思われる人間の遺骨が発見されていた。洞窟の暗い水底に沈む頭蓋骨。地中から引き上げられる乳歯や切断された後頭部の骨。神に捧げる生贄は貴重なものであるほど良い。当時マヤ文明で最も貴重で価値のあるものは子供だった。以前どこかで、生贄の文化は輪廻転生の思想のある地域でないと発生しないという話を読んだ。マヤ文明はどうだったのだろう。そういった話は最後まで出てこなかった。

 マヤ文明の回を最後まで観て、まだ休憩時間に余裕があったから、仮眠をとることにした。タイマーをセットして目を閉じる。屋上の休憩室。出入口付近のテーブルで眠っていたから、隙間風がずっと足下に吹きつけていた。春みたいな風だった。弱くてぬるくて心地いい。よく眠れそうだなと思ったのに、うとうとしている内にタイマーが鳴った。今日は眠るのがずっと下手だった。