雪になりたい椿の日記

雪になりたい椿の日記です

#4

 街を散歩した。久しく歩いていない道を歩いた。廃墟が更地になり、ビルが1つ消えて、古びたフードコートが若者向けの服屋や雑貨屋さんになっていた。再開発だから。街は月単位で変化する。同じ街のなかを毎日歩いているのに気がつかなかった。死ぬことのデモンストレーションみたいだなと思った。友人の近況を耳にしたときとも似てる。関係ないんだ。変化は浸透してこない。自分と外の境界線をこえない。色とりどりの変化の真ん中で頑なに変化せずにいることもできる。望んでいないつもりだけど、こういう場合、実際は無意識に望んでいる。

 高校生のころのことを思い出した。高校から帰ると、ジャージに着替えて、夕方に家をでて、国道沿いをとおり、水田の道を隣町のほうへひたすら走った。関東平野の水田地帯は景色が広い。空港の滑走路みたいに果てしなく長い畦道を走っているうちに陽がおちて、辺りが暗くなる。遠くに街の灯りが星みたいに光りだす。その景色を眺めるのが日課だった。隣町の光、遠い家々の灯りを見つめると胸が苦しくなった。時間の許すかぎりそこにいてもう一つの人生を空想した。あのとき吸いこんでいた空気はとても澄んでいた。もう二度と吸えないだろう。 

色香水

色香水

  • 神山羊
  • J-Pop
  • ¥255