雪になりたい椿の日記

雪になりたい椿の日記です

#21

 雨が降ってる。雨は好きだけど、あんまり酷いと3年前の避難生活を思いだして怖くなる。けどやっぱり晴れるよりは雨のほうがいい。ジメジメしているけど晴れたら晴れたで暑いでしょと思う。

 蓮が咲いてる。蓮は6月のイメージがあったけど、七十二候でいまは蓮始開(はすはじめてひらく)と言うらしい。暦のアプリを入れて知った。この時期の旬の食材はスズキ、アワビ、ニンニク。鱸、鮑、大蒜と書く。鱸の名前の由来は『身が水ですすいだように白いから』。そういう知識を追っていると心が安らぐ。ぽんぽんと身体のあちこちを優しく叩いていくような感覚がする。そうして自分がいまこの世界に存在しているんだという実感を得る。

 学生のころ資料集を読むのが好きだった。教科書も、ページの隅や、章と章の間にある、試験とは特に関係のない知識を読むのが好きだった。必要不可欠ではないけど、知っていると生活の彩りがすこし豊かになるかもしれないからと、教科書を作った人がオマケでつけてくれたような知識。実際、そこには勉強への反発や逃避が多少は混ざっているかもしれないけど、好きだった。やっぱり気持ちが充実した。『これまでに行った「必要なこと」よりも「無駄なこと」の方にその人の人生は表れる』と誰かが言っていた。そういうことなのかもしれない。必要のないことは屈託なく愛せる。生きてる人よりも死んでいる人のほうが屈託なく尊敬できるのと同じように。