雪になりたい椿の日記

雪になりたい椿の日記です

浸透圧

 

 土の匂いがする。暖かいから今日は、風がつよく吹くあいだはガラス窓に、風が静まってからは網戸にして過ごした。夕方。薄暗い部屋の中に土の匂いがする。

 

 冬の匂いとは違うみたい。なにが違うのだろう。もしかしたら土の匂いではないのかもしれない。冬眠から目を覚ました微生物が宙を漂っているのかも。もしくは湿度。芽吹きはじめた緑の匂いも混ざっているか。

 

 外が暮れていく。空は薄明るい。部屋の灯りは消している。外と部屋の空気が一緒になる。「浸透圧」という言葉を思い出す。理科の授業で習ったかな。匂い、明暗、温度が外から浸透してくる。それなら網戸が細胞の膜ということになる。

 

 指先の匂いを嗅ぐ。昨日、草むしりを沢山した。爪の間に入った土を入念に洗って、けど、帰りの電車のなかでも指先からは土の匂いがした。今も土の匂いがするような、いや、これは外の空気の匂いなのか。

 

 浸透圧。握手をすると、相手の細胞と自分の細胞が僅かに交じり合うと読んだことがある。浸透するのだろうか。それならこの指先には今、昨日の土や草の細胞が浸透しているのだろうか。

 

 僕が死んだらこの身体は土に浸透する。それで春になれば、土の匂いが風にのるだろう。死んだら風になるというのは本当なのかもしれないと思うなどした。