雪になりたい椿の日記

雪になりたい椿の日記です

#29

 雨のせいで薄暗かった。晴れたと思ったらもう夜だった。日に日に夜が長くなる。年末を意識する。年が暮れていく雰囲気が好きだとつい最近まで思っていたのに、今年はなんとも思わない。街にクリスマスツリーが光りはじめた。クリスマスソングはまだ聴こえない。噛み合わない。噛み合ってくれない。

 八月に、自宅の最寄駅からグリーン車に乗って、終点の駅まで景色を眺めるだけの旅をした。車窓を眺めるためにグリーン券を買った。贅沢な時間。今年はあの一日だけがきちんと夏だった。この冬もあれをやりたい。遠くの県の知らない街へ行って、自分とは関係のない人たちの暮らしを眺めたい。関係ないから綺麗なところだけ見えるだろう。関係のない街と人間は本当に綺麗に見える。

 一番小さい歯車みたいな一日の、小さな悪循環と戦っている。歯車の大きさを見誤らないように気をつける。もうすぐ30歳になる。風の音が聴こえる。流れる雲と細い月をイメージする。一見関係のない物事とイメージをあつめて歯車にする。いまの自分とは関係のない自分になるために。